普通學校 國語讀本 巻八


朝鮮總督府編纂  普通學校 國語讀本 巻八
大正四年十月十三日印刷
大正四年十月十五日發行
定價金六銭

朝鮮總督府
總務局印刷所印刷


総頁数 134頁
緒言
目録 第1課〜第31課
附録


目 録
第一課 皇室
第二課 和歌 (変体仮名表記のため省略)
第三課 天日槍(あまのひほこ)
第四課 文字の音(おん)と訓(くん)
第五課 漢文訓読(一) (漢文表記のため省略)
第六課 漢文訓読(二) (変体仮名表記のため省略)
第七課 世界(一)
第八課 世界(二)
第九課 世界(三)
第十課 鶩(あひる)の自慢
第十一課 動物の體色
第十二課 書物を借用する手紙
第十三課 稲橋村(いなはしむら)の美風
第十四課 地方金融組合
第十五課 慥(タシカ)ナ保證
第十六課 日本海ノ海戰
第十七課 まっち
第十八課 分業ト共同
第十九課 道路
第二十課 塙保己一(はなわほきいち)
第二十一課 金剛石(こんごうせき) (変体仮名表記のため省略)
第二十二課 暦
第二十三課 舊師に送る手紙
第二十四課 日記
第二十五課 拾物屆
第二十六課 勞働
第二十七課 註文状
第二十八課 孔子と孟子
第二十九課 菅原道眞(すがわらのみちざね)
第三十課   大日本帝國(一)
第三十一課 大日本帝國(二)
附録  一、  神代御略系及ビ天皇御歴代表
     二、  本字振假名
      三、  語句解釋


   
緒 言
一、 本書ハ普通學校第四學年後半期ノ國語科教科書ニ充ツルモノナリ。
二、 本書ハ、振假名遣ヲ表音的假名遣トセル外、總ベテ歴史的假名遣ニ依レリ。
   歴史的假名遣ハ、生徒ヲシテ、之ヲ讀ミ得シメンコトヲ期スルモノニシテ、必ズシモ、之ニ依リ、誤ナク書キ得ル
   ニ至ラシメントスルモノニ非ズ。
   又、本書ニハ平易ノ文語體ヲ多ク加ヘタリ。是レ亦、生徒ヲシテ、之ヲ讀ミ且理會シ得シメンコトヲ期スルモノニ
   シテ、必ズシモ、之ヲ以テ、文章ヲ綴リ得ルニ至ラシメントスルモノニ非ズ。
三、 本書第五課及ビ第六課ニハ、漢文ニ返リ點及ビ送り假名ヲ附セルモノヲ載セテ、漢文訓讀ノ例ヲ示シタリ。尚
   ホ教師ハ、普通學校朝鮮語及漢文讀本ワリ、適宜平易ノ漢文を採リ、之ヲ訓讀セシムルモ可ナリ。
四、 本書ヲ教授スルニハ、國語ヲ以テ説明ヲ加ヘ、且ツ實物・動作・會畫等ヲ利用シ、生徒ヲシテ十分ニ其ノ意義
   ヲ理會セシメ、尚ホ言語或ハ文章ヲ以テ、明瞭ラ之ヲ表出セシムベシ。
五、 本書ノ各課ヲ教授スルニハ、本文ノ讀方・解釋等ニ入ル前、必要ニ應ジテ、該課ノ内容ニ關シ、豫メ國語ニテ
   問答又ハ説明ヲナスベシ。
六、 新出語ハ總ベテ之ヲ上欄ニ掲ゲ、且ツ新出文字ニハ點ヲ附シ、讀替文字ニハー線ヲ附セリ。
七、 練習問題ハ、掲グルモノノ外、必要ニ應ジテ、之ヲ補フベシ。
   但シ第十課乃至第十七課ノ語法練習ニ於テハ、適宜、他ノ詞ノ活用ニ關する例題ヲモ課スルヲ防ゲズト雖、其
   ノ程度・方法ハ、總ベテ該課提出ノ問題ニ準ズベキモノトス。
八、 教師ハ、各課ノ教授ニ於テ、機ニ臨ンデ、言語・文字ヲ補ヒ、授ケ、又、土地ノ状況、生徒ノ境遇等ニ依リ、適
   宜、該課ニ關係アル事項ヲ補ヒ授クベシ。
九、 巻末ノ附録ハ、生徒ヲシテ、豫習・復習ノ際、之ヲ利用セシムベシ。

    大正四年九月         朝 鮮 總 督 府


   
一課 皇室
神代の昔、天照大神は御孫瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を降して、我が國を治めしめ給時、
 「此の國は我が子孫の君たるべき地なり。汝皇孫、ゆいて治めよ。皇位のさかんなることは、天壤(あめつち)とともに窮(きわま)り無かるべし。」
と仰せられました。
瓊瓊杵尊は此の御勅(おんみことのり)に從ひ、大神から賜はつた鏡・劔・玉の三つの御寶を奉じて、此の國にお降りになりました。これは三種の神器と申しまして、此の上もない尊い御寶で、皇位の御しるしとして、次々に御代々の天皇に傳へられます。
天照大神の御勅の通りに、天皇の御位には、必ず大神の御子孫が、お即きになりますから、萬世一系の天皇と申し奉ります。
御代々の天皇は、萬民を子の樣に思召(おぼしめ)して、仁政を施されました。仁徳天皇が
「民の貧しきは則ち朕の貧しきなり。民の富めるは則ち朕の富めるなり。」
と仰せられましたのは、御代々の天皇の、臣民に對せられる大御心でございます。
かやうに有り難い皇室を、戴いて居る我々日本臣民は、まことに幸福なものでございます。決して其の御恩を忘れてはなりません。

練習
 一、天照大神の御勅をお述べなさい。
 二、三種の神器のことをお話しなさい。
 三、萬世一系の天皇と申し奉るわけをお話しなさい。
 四、御代々の天皇の、臣民に對せられる大御心をお話しなさい。
 五、左の文を口語體に改めてごらんなさい。
   (イ)此の國は我が子孫の君たるべき地なり。
   (ロ)皇位のさかんなることは、天壤とともに、窮り無かるべし。
   (ハ)民の富めるは則ち朕の富めるなり。





二課 和歌 (変体仮名表記のため省略)




   
三課 天日槍(あまのひこ)
第十一代垂仁天皇(すいにんてんのう)の御時、播磨國(はりまのくに)の或る海岸に、一艘の船が着いて、見かけのいやしくない人が、數人の從者を連れて上陸しました。
やがて此の事が朝廷に聞えましたので、天皇は使者をお遣はしになって、
「お前は誰か。」
と、お尋ねになりました。すると
「私は新羅の王子で、天日槍と申すものでございます。天皇陛下の御徳をお慕ひ申しまして、こちらに住みたいと思つて、はる\/海を渡つてまゐつたのでございます。」
とお答へ申しました。さうしていろ\/な珍らしい物を獻上いたしました。
そこで天皇は其の願をお許しになつて、日槍に土地を賜はろうと仰せられました。日槍は
「まことに有り難うございます。それでは私はこれから國々を巡つてみまして、心にかなつた所に、住ませて戴きたうございます。」
と申し上げました。
天皇はそれをお許しになりました。それで日槍は方々を巡り歩いて、但馬國(たじまのくに)が氣に入つたといふので、其の地を戴いて住みました。
日槍の子孫は其の地方の名家になつて、永く皇室につかへました。

練習
 一、天日槍は天皇の御使に何と答へましたか。又、天皇が其の願をお許しになつた時、何と申し上げましたか。
 二、天日槍の子孫のことをお話しなさい。




   
四課 文字の音(おん)と訓(くん)
國語を書きあらはす文字には、本字と假名とあり。本字は、遠き昔に、支那にて作りたるものなるが、又、之に倣ひて、内地にて作りたるものもあり。假名は全く内地にて作りたるものなり。支那にて作りたる本字を漢字と云ふ。漢字には音と訓とあり。即ち土(ど)・石(せき)・木(もく)・金(きん)は音にして、土(つち)・石(いし)・木(き)・金(かね)は訓、雨(う)・水(すい)・雲(うん)・雪(せつ)は音にして、雨(あめ)・水(みず)・雲(くも)・雪(ゆき)は訓なり。我が國語には、音と訓と併せ用ひらる。
内地にて作りたる本字は、畠(はた)・噺(はなし)・峠(とうげ)・働(はたらき)・叺(かます)・枡(ます)の類にして、之を和字と云ふ。和字には多く訓のみありて、音あるは甚だ少なし。
一の漢字には一の音あるのみにあらずして、二三の音あるものあり。京都(きょうと)・京城(けいじょう)・改正(かいせい)・大正(たいしょう)・行為(こうい)・行儀(ぎょうぎ)・安在所(あんざいしょ)等を見て之を知るべし。
二つ以上の本字にて、一つの言葉を書きあらはす時には、其の本字をすべて音にて讀むことあり、又、すべて訓にて讀むことあり、或は音と訓とを交ふることあり。京城・行為・大正の如きは、皆、音にて讀むもの、受取・塗物・問合の如きは、皆、訓にて讀むもの、團子(だんご)・敷地(しきち)・唐箕・重箱の如きは、音訓交へ用るものなり。
本字にて書きあらはしたる語の讀み方は、それぞれ皆きまり居るものなれば、勝手に讀むべきものにあらず。

練習
 一、二つ以上の本字で、一つの言葉を書きあらはす時の讀み方をお話しなさい。
 二、次の本字の讀み方は、どれが音で、どれが訓ですか。
    國(こく)、 國(くに)。  人(ひと)、 人(にん)。  時(じ)、 時(とき)。
    動(どう)、 動(うごく)  開(かい)、 開(ひらく)。 位(くらい)、 位(い)。




五課 漢文訓讀(一) (変体仮名表記のため省略)
六課 漢文訓讀(二) (変体仮名表記のため省略)




   
七課 世界(一)
或ル時、先生ガ生徒ニイロ\/地理ノ話ヲシテ、聞カセテ居ラレマスト、一人ノ生徒ガ先生ニ向ツテ、
「先生、私ドモノ住ンデ居ル世界ハ地球ト云ツテ、大キナ圓イ球ダト云フコトデスガ、ドウシテ其ノ圓イコトガ分リマスカ。」
ト尋ネマシタ。
先生「ソレハヨイ問デアル。地球ノ圓イコトハ、世界ヲ一周スレバ分ル。今日デハ、世界ヲ一周スルノハマコトニタヤスイ。僅カニ四十日もかヽレバ一周サレル。
我々ハ汽車ニ乘ツタリ、汽船ニ乘ツタリシテ、西ヘ西ヘト進メバ、マタモトノトコロニ歸ツテ來ル。或ハ東ヘ東ヘト進ンデモ、同ジコトデアル。コレハ地球ノ圓イ證據デアル。若シ地球ガ平タイモノナラバ、行ケ行クホド、遠クヘ行ツテシマツテ、マタモトノ地ニ來ナイ筈デアル。」
生徒等ハ皆先生ノ話ヲ尤モダト思ヒマシタ。
又、他ノ生徒ガ先生ニ尋ネマシタ。
「僅カ四十日位デ廻ラレルナラバ、世界ハ思ツタヨリモ小サナ物ノヤウデスガ、一體ドノ位アルノデセウカ。」
先生「地球ノ直徑ハ凡ソ三千二百里デ、其ノ面積ハ凡ソ三千三百萬方里アル。決シテ小サナモノデハナイ。皆サンハ、我ガ日本ノ面積ハドノ位アルカ、知ツテ居マスカ。」
生徒「ソレハイツカ先生ニ教ヘテ戴イタカラ、覺エテ居マス。タシカ四萬三千方里デアリマシタ。」
先生「サウダ。四萬三千方里ダ。能ク覺エテ居マシタ。世界ノ面積ニクラベレバ、マコトニ小サイケレドモ、一ツノ國トシテハ、決シテ小サナモノデハナイ。世界ニハ我ガ國ヨリ小サナ國ガイクツモアル。勿論、我日本ヨリ大キナ國モアルガ、國ハタヾ大キイバカリデハダメダ。ソレハ皆サンニモ分リマセウ。
生徒「ハイ、分リマス。大キクテモ、盛ンデナイ國モアリマス。」
先生「サウダ。大キイバカリデハイカヌ。第一大切ナコトハ、國民ガ忠良デ、ハタラキノアル人ニナルコトダ。皆サンモ常ニ之ヲ忘レナイデ、我ガ日本國ヲuヽ盛ンニスルヤウニ、心掛ケナケレバナリマセンゾ。」

練習
 一、世界ノ圓イコトヲ文ニオ作リナサイ。
 二、地球ノ直徑及ビ面積ハ、凡ソ何程アリマスカ。
 三、我ガ日本ノ面積ハ何程アリマスカ。
 四、國ヲ盛ンニスルニ、第一大切ナコトハ何デスカ。




   
八課 世界(二)
ソレカラ、又、先生ハ
「皆サンハ、我ガ日本ノ外ニ、支那ヤ露西亞ナドノアルコトハ、能ク知ツテ居ル筈ダガ、マダ其ノ外ニ、ドンナ國ガアルカ、知ツテ居マスカ。」
ト問ハレマシタ。
生徒ノ中ニハ英吉利(イギリス)ヲ知ツテ居タモノモアリ、亞米利加(アメリカ)ヲ知ツテ居タモノモアリ、又、佛蘭西(フランス)・獨逸(ドイツ)ナドヲ知ツテ居タモノモアリマシタガ、先生ハモウ少シ委シク話シテ聞カセヨウト言ツテ、次ノ樣ニ話サレマシタ。
「地球上ニハ亞細亞洲・歐羅巴(ヨーロッパ)洲・大洋洲・亞弗利加(アフリカ)洲及ビ南亞米利加洲ノ六大洲ガアル。又、太平洋・大西洋・印度洋・南氷洋及ビ北氷洋ノ五大洋ガアル。我ガ日本ヤ支那ハ亞細亞洲ノ内デ、英吉利・佛蘭西・獨逸・露西亞・墺地利洪牙利(オーストリヤハンガリー)・伊太利(イタリヤ)ナドハ、歐羅巴洲ノ内デアル。我々ガ通例亞米利加ト云フノハ、北亞米利加合衆國(ガッシウコク)ノコトデアル。世界ニハ、此ノ外ニ、マダ多クノ國ガアル。世界ノ國ノ中デ、英吉利ハ我ガ日本ノ同盟國デ、最モ親シイ間柄デアル。ソレカラ世界ニハ、我ガ東京ノ外ニ、大キナ都會ガ澤山アルガ、トリワケ英吉利ノ倫敦(ロンドン)、佛蘭西ノ巴里(パリー)、獨逸ノ伯林(ベルリン)、亞米利加ノ紐育(ニューヨーク)ナドハ、人口ガ甚ダ多ク、商工業ガ盛ンデ、スベテノ設備ガヨク整ツテ居ル。」
我々ハ朝鮮カラ汽車ニ乘ツテ、しべりやヲ通ツテ歐羅巴ニ行き、又大西洋ヲ横ギツテ北亞米利加ニ着キ、更ニ太平洋ヲ越エテ、横濱又ハ神戸ニ着イテ、ソレカラ再ビ朝鮮ニ歸ルコトガデキル。ソレニハ前ニ言ツタ通リ、急ゲバ四十日位シカカヽラヌ。モウ少シ日ヲ揀Zバ、歐羅巴ヤ北亞米利加ノ主ナ都會ヲ見物シテ歸ラレル。實ニ便利ナ世ノ中ニナツタモノデアル。」
生徒等ハ、地圖ヲ見ナガニ、熱心ニ先生ノ話ヲ聽イテ居マシタ。

練習
 一、六大洲トハ何々デスカ。
 二、五大洋トハ何々デスカ。
 三、世界ニハドンナ國々ガアリマスカ。
 四、世界ノ主ナ都會ヲ、知ツテ居ルダケ、言ツテゴランナサイ。
 五、朝鮮カラしべりやヲ通ツテ、世界ヲ一周スル道筋ヲオ話シナサイ。




   
九課 世界(三)
先生「センダツテカラ、世界ノコトニツイテ、イロイロ話シマシタガ、モウ少シ話シタイコトガアル。皆サンハ世界中ニ、人間ガドレホド住ンデ居ルト思ヒマスカ。
コレハ誰モ知リマセンカ。世界ノ人口ハ凡ソ十六億アル。實ニ澤山ナ數デセウ。ソレデハ我ガ日本ノ人口ハ、ドレホドデスカ。」
生徒「凡ソ七千萬人デス。」
先生「サウダ。ミンナデ七千萬人ホドアル。サウスルト我ガ日本ノ人口ハ、世界ノ人口ノ二十三分ノ一ニ當ルワケダ。面積ニクラベルト、割合ニ人口ガ多イ。獨逸ノ人口ハ日本ヨリ千萬人モ少ナク、佛蘭西ハ三千萬人モ少ナイ。」
生徒「今ハ世ノ中ガ大層進ミマシタガ、ソレデモマダ開ケナイ人間モアリマスカ。」
先生「ソレハアルトモ。亞細亞ノ沙漠地方ニハ、天幕ヲ張ツテ住ンデ居ル人間ガアルシ、太平洋ノ島ニハ、樹ノ上ニ家ヲ造ツテ住ンデ居ル人間ガアル。又、北亞米利加洲ノゴク北ノ方ニ居ル人間ハ、氷ノ家を造ツテ居ル。此ノ外、亞弗利加洲ノK人ナドモ野蠻人デアル。」
生徒等ハ、今ノ世界ニモ、マダソンナ人間ガアルカト思ツテ驚キマシタ。

練習
 一、世界ノ人口ハナニホドアリマスカ。
 二、日本ノ人口ハナニホドアリマスカ。
 三、世界ノ中ニハ、ドンナ開ケナイ人民ガ居マスカ。
 四、第七課カラ第九課マデニ習ツタ日本ノコトヲマトメテ、口語文ニオ作リナサイ。




   
十課 鶩(あひる)の自慢
古池に育ちたる鶩あり。鴨(かも)・鴎(かもめ)などにさそはれて、沼・川をわたり歩くうちに、羽軽くなりて、少しづつ飛び得るに至れり。されば、おひ\/にうぬぼれの心を起し、仲間に向ひて、
「世の中に鳥獸は多けれど、我等ほど多藝なるはあるまじ。飛ぶことも、泳ぐことも、歩くことも、歌ふことも、心のまヽなり。鶯(うぐいす)は能く歌へども、泳ぐことを知らず。猫は能く鼠を捕ふれども、飛ぶことも、泳ぐことも出來ず。」
などと言ふ。皆々憎しと思へども、言ひまかされて、口をつぐみ居たり。
或る日、鶩は荷馬の來りて水を飲み居るを見て、例の如く自慢を始め、
「馬どの、御身は體大きくして、其のさま立派なれど、物を荷ふこと、走ることの外に、なほ何か藝ありや。多分、歌も歌へまじ、空高くも飛べまじ。とても我が多藝には及ぶまじ。」
と言ふ。馬は見かへりて、
「如何にも御身は多藝なるべし。されど御身の藝は、一として、まがひものならぬはなし。泳げども、鵜(う)のやうにはあらず。飛べども、鴨・鴎のやうにはあらず。歩むふりは見にくく、鳴く聲は鳥よりも聞きぐるしと知らずや。つまらぬ藝の多からんよりも、善き一藝に高くすぐれたるが遥かにましなり。」
と言ふ。
さすがの鶩も恥ぢ入りて、こそ\/と逃げ行きたり。

練習
 一、此の鶩のことをまとめてお話しなさい。
 二、此の課を讀んで感じたことをお話しなさい。
 三、詞にははたらくものと、はたらかないものとあります。
   次の例を讀んで、其の區別に注意しなさい。

   はたらかない詞  馬・猫・花・葉・木・石・凡そ・實に・大層。

             (口語)             (文語)
   はたらく詞 (本を)讀ま(ぬ・ない)     (本を)讀ま(ず)(ば)
          (本を)讀み(て)(ん)(で)   (本を)讀み(て)
          (本を)讀む            (本を)讀む
          (本を)讀む(人)         (本を)讀む(人)
          (本を)讀め(ば)         (本を)讀め(ば)
          (本を)讀め            (本を)讀め

          (花が)咲か(ぬ・ない)     (花)咲か(ず)(ば)
          (花が)咲き(て)         (花)咲き(て)
          (花が)咲く            (花)咲く
          (花が)咲く(時)         (花)咲く(時)
          (花が)咲け(ば)         (花)咲け(ば)
          (花)咲け             (花)咲け
此のやうに、口語・文語とも、「讀む」は「ま・み・む・め」の四段に、「咲く」は「か・き・く・け」の四段にはたらくのです。




   
十一課 動物の體色
田に住む蛙は土色にして、木の葉に宿る雨蛙は緑色なり。黄色の蝶は菜種の花に群がり、白色の蝶は大根畑に集まる。晝は暗き所に潛み、日暮れより出てて飛ぶ蝙蝠は暗K色にして、海底の砂の上に棲む鰈(かれい)は、其の體の反面、砂の色に似たり。
かくの如く、動物には其の體色周圍の物の色に似て、自ら之とまぎれて、たやすく他の動物に見付けられざるものあり。随つて此等の動物は敵に襲はるゝ患少なく、我より敵を襲ふには便なり。此の種の體色を保護色と名づく。
動物の中には、周圍の物の色の變ずるに随つて、保護色の變ずるものもあり。或る地方に棲む兎は、其の毛色、枯葉の色と同じけれども、雪の降る頃となれば、全く白色に變ず。又、烏賊は水中に泳ぐ間は水色なれども、岩石に附着する時は、岩石と同じ色に見ゆ。保護色の變ずるは既に面白きことなるが、それよりも尚ほ面白きは、其の動物の身ぶりによりて、形さへ其の周圍の物に似るもののあることなり。例へば桑の木に居る枝しやくとりは、其の體色の桑の木に似たる上、其の體の後の端を桑の木に附け、體を斜に突出する時は、其の形、桑の小枝に異ならず。農夫などは小枝と見違へ、土瓶を掛け、落して割ることあり。故に或る地方にては、之を土瓶割と云ふ。

練習
一、保護色のことを口語文にお作りなさい。
二、兎と烏賊との保護色のことをお話なさい。
三、枝しやくとりのことをお話しなさい。
四、「集る」「棲む」といふ詞は、次のやうにはたらきます。

(口語)                 (文語)
(畑に)集ら(ぬ・ない)      (畑に)集まら(ず)(ば)
(畑に)集り(て)          (畑に)集り(て)
    (っ)
(畑に)集る             (畑に)集る
(畑に)集る(蝶)          (畑に)集(蝶)
(畑に)集れ(ば)         (畑に)集れ(ば)
(畑に)集れ            (畑に)集れ

(田に)棲ま(ぬ・ない)      (田に)棲ま(ず)(ば)
(田に)棲み(て)         (田に)棲み(て)
    (ん)(で)
(田に)棲む            (田に)棲む
(田に)棲む(蛙)         (田に)棲む(蛙)
(田に)棲め(ば)         (田に)棲むめ(ば)
(田に)棲め            (田に)棲め

此のやうに、口語・文語とも「集る」は「ら・り・る・れ」の四段に、「棲む」は「ま・み・む・め」の四段にはたらくのです。




    
十二課 書物を借用する手紙
(口語文)
拝啓。 此の間は参上致し、御馳走になりまして、有り難う存じます。其の時拝見致しました農業書、只今御不用でございますならば、兩三日の間、拝借願ひたうございます。お差支がなければ、どうぞ此の者にお渡し下さい。早々。

(候文)
拝啓。 此の間は参上致し、御馳走に相成り、有り難く存じ候。其の節拝見致し候農業書、只今御不用に御座候はば、兩三日の間、拝借願ひたく候。お差支これなく候はば、何卒、此の者に御渡し下されたく候。早々。

同じく返事

(口語文)
拝啓。 御手紙拝見致しました。先達ては折角御出で下さいましたのに、一向御構ひ申しませんで、失禮致しました。御申し遣はしの農業書は、只今、自分方では不用でございますから、御使に持たせて差上げます。ゆるゆる御覽下さい。早々。

(候文)
拝啓。 御手紙拝見致し候。先達ては折角御出で下され候處、一向御構ひ申さず、失禮致し候。御申し遣はしの農業書は、只今、自分方では不用に付、御使に持たせ差上げ候。ゆる\/御覽下されたく候。早々。

練習
左の候文を口語文に書き改めなさい。
 (一)、次の日曜日に、御差支これなく候はば、健一君と私方へ御遊びに御出で下されたく候。
 (二)、御手紙有り難く拝見致し候。次の日曜日には、差支これなく候に付、健一君と共に参上致したく存じ候。




    
第十三課 稻橋村(いなはしむら)の美風
愛知縣の稻橋村といふは、山中の一小村で、交通も不便であるし、名所などもありませんから、世間には一向知られて居ません。 けれども此の村には、他に見られぬ種々のびふうがります。
此の村は、人々が仲よくして、年が年中、暖かい春風が吹き渡つて居るやうです。 さうしてどこの家も、よく和合して樂しく暮し、惡い遊などをするものはありません。
村の人々は、誰も皆、本業として居る農業に、一生懸命になつて、骨を折るのは言ふまでもなく、又、よく種々の副業をも務めます。 それですから農事は次第に改良され、養蠶・造林は勿論、縄綯(なわない)・草鞋作(わらじつくり)・菰編(こもあみ)・製茶なども盛んになりました。
此の村の人々は相談して、明治十一年から、めいめい一日に一厘づつの貯金をしましたが、今は其の額が積もつて約三満圓に達した、といふことです。又、世界各國の貯金額を扇に書いて、之を富國扇(ふこくせん)と名づけて、家々の壁に懸け、貯金を奬勵して居るさうです。
日露戰爭の初に、政府が軍事公債を全國に募集した時、稻橋村は一番先に之に應じました。 又、他の村にも金を貸して、便利を計つてやりました。
かういふ美風のできたのは、もとより村の人々の心掛のよいのによるけれども、又、此の村の老農古橋氏父子の盡力も、少なくないといふことです。

練習

一、稻橋村にはどんな美風がありますか。

二、次の漢字に振仮名をおつけなさい。
  (イ)募集。 日暮。 墓。
  (ロ)柱。 住居。 注意。 註文。
  (ハ)容易。 太陽。 場所。 腸。 湯。

三、「起きる」「下りる」といふ詞は、次のやうにはたらきます。

   (口 語)                 (文 語)
  (早く)起き(ぬ・ない)         (早く)起き(ず)(ば)
  (早く)起き(て)             (早く)起き(て)
  (早く)起きる              (早く)起く
  (早く)起きる(人)           (早く)起くる(人)
  (早く)起きれ(ば)           (早く)起くれ(ば)
  (早く)起き(よ)             (早く)起き(よ

  (山から)下り(ぬ・ない)        (山より)下り(ず)(ば)
  (山から)下り(て)           (山より)下り(て)
  (山から)下りる              (山より)下る
  (山から)下りる(時)            (山より)下るる(時)
  (山から)下りれ(ば)          (山より)下るれ(ば)
  (山から)下り(よ)             (山より)下り(よ)

此のやうに、「起きる」(口語)は「き」の一段にはたらきますが、「起く」(文語)は「き・く」の二段にはたらきます。「下りる」(口語)もこれと同じく、「る」の一段にはたらきますが、「下る」(文語)は「り・る」の二段にはたらくのです。

四、「見る」「着る」という詞は、次のやうにはたらきます。

   (口 語)                 (文 語)
  (花を)み(ぬ・ない)            (花を)み(ず)(ば)
  (花を)み(て)               (花を)み(て)
  (花を)みる                (花を)みる
  (花を)みる                (花を)みる
  (花を)みれ(ば)             (花を)みれ(ば)
  (花を)み(よ)               (花を)み(よ)

  (着物を)き(ぬ・ない)           (着物を)き(ず)(ば)
  (着物を)き(て)               (着物を)き(て)
  (着物を)きる                (着物を)きる
  (着物を)きる(人)             (着物を)きる(人)
  (着物を)きれ(ば)             (着物を)きれ(ば)
  (着物を)き(よ)               (着物を)き(よ)

 此のやうに、口語文語とも、「見る」は「み」の一段にはたらき、「着る」は「き」の一段にはたらくのです。




   
第十四課 地方金融組合
朝鮮にては、諸方に地方金融組合といふものありて、農民の爲めに金融の便を計る。
此の組合は、一定の區域内に住居する農民を組合員とし、朝鮮總督の認可を得て設立せられたるものにして、組合長・理事・監事等の職員ありて業務を行ふ。
組合員となるには加入を申し込み、一口以上の出費を爲すことを要す。 一口の金額は十圓なり。」
地方金融組合にて營む業務に種々あり。 組合員に、農事上必要なる資金を貸付すること、組合員の爲めに預の金を爲すこと、種子・種苗・肥料・農具等の購入又は分配を爲すこと、農具其の他必要なる材料を貸付すること、組合員の委託に依り、其の生産物の販賣又は保管を爲すこと等是れなり。
されば金融組合の組合員となる時は、右に記する如き種々の便uを與へられ、農業上に少なからざる助を得べし。
又、朝鮮には、古来、契と稱するものあり。 是れ亦一種の組合にして、契員は共濟共助の目的を達する爲めに、金錢・穀類等を出資するなり。 牛契・農事契・養蠶契等其の種類多く、金融上産業上に裨u少なからず。 然れども、其の方法宜しきを得させる時は、往々弊害を生ずることあり。

練習
一、地方金融組合は、どんなにして設立されますか。
二、地方金融組合の組合員となるには、どうしますか。
三、地方金融組合では、どんな業務を營みますか。
四、契のことをお話しなさい。




    
第十五課 慥(タシカ)ナ保證
或ル商店デ、新聞紙ニ店員入用ノ廣告ヲ出シタ。志望者ハ五十人バカリモ來タガ、主人ハ、其ノ中デ、一人ノ青年ヲ雇ヒ入レルコトニキメタ。
或ル人ガ主人ニ向ツテ、外ニ知名ノ人ノ手紙ヲ持ツテ來タ者モ大勢アツタノニ、ドウイフ御見込デ、アノ青年ヲ御用ヒナツタノデスカト尋ネタ。」
主人ハ答ヘテ、
「アレガ此ノ室ニハイル前、先ヅ着物ノホコリヲ拂ヒ、ハイツテカラハ、静カニ後ノ戸ヲシメマシタ。 キレイズキデ、愼ミ深イコトハ、ソレデヨク分リマシタ。 談話最中、一人ノ老人ガハイツテ來マシタガ、直グニ立ツテ、椅子ヲ譲リマシタ。人ニ親切ナコトハ、是レデモ知レルト思ヒマシタ。挨拶(アイサツ)ヲシテモ丁寧デ、少シモ生意氣(ナマイキ)ナ風ガナク、何ヲ聞イテモ、一々明白ニ答ヘテ、シカモ餘計ナコトヲ言ヒマセン。 ハキ\/シテ居テ、禮儀・作法ヲワキマヘテ居ルコトモ、ソレデスツカリ分カリマシタ。
私ハワザト一巻ノ書物ヲ、床ノ上ニ投ゲテ置キマシタ。 他ノ者ハ少シモ氣ガ付カナイデ、中ニハソレヲ踏ンダ者モアリマシタガ、アノ青年ハ、ハイルト直グニ、書物ヲ取リ上ゲテ、てーぶるノ上ニ置キマシタ。 ソレデ注意深イ男トイフコトヲ知リマシタ。
人ガ大勢込ミ合ツテ居ル中デ、少シモ人ニ先ンジヨウトハセズ、静カニ自分ノ順番ヲ待ツテ居マシタ。 アレノ温順ナコトヲヨク現ハシテ居マス。 又、着物ハ粗末ナガラ、サツパリシタモノヲ着テ、齒モヨク磨イテ居マシタ。 又、字ヲ書ク時ニ、指先ヲ見ルト、爪ヲ短ク切ツテ、爪垢ナドタメテ居マセンデシタ。爪ノ先ハミンナマツKニナツテ居マシタ。
カウイフヤウナ、色々ナ善イ性質ヲモツテ居ルコトヲヨク見定メマシタ上、尚ホ平生ノ行ヲシラベテ、雇フコトニ致シマシタ。 立派ナ人ノ手紙ヨリモ、何ヨリモ、本人ノ行ガ慥ナ保證デス。」
ト言ツタ。

練習
一、主人ハ、ドウシテ青年ガ愼ミ深クテ、親切デアルコトヲ知リマシタカ。
二、此ノ青年ハ挨拶ヲスル時ドンナデシタカ。
三、主人ハ、ドウシテ此ノ青年ガ注意深クテ、温順デアルコトヲ知リマシタカ。
四、此ノ青年ハ齒ヤ爪ヲドンナニシテ居マシタカ。
五、主人ガ青年ヲ雇ツタワケヲオ話シナサイ。




   
第十六課 日本海ノ海戰
日露戰役ニ、露國ハ連敗ノ勢ヲ回復セン爲メ、本國ニ於ケル海軍ノ殆ンド全力ヲ擧ゲテ、大艦隊ヲ組織シ、遠ク之ヲ浦潮斯コニ送ラントス。
明治三十八年五月二十七日、此ノ大艦隊ハ朝鮮海峡ニ現ハレタリ。
東郷司令長官ハ全軍ニ出動ヲ命ジ、信號旗ヲ掲ゲテ日ク、
「皇國ノ興廢此ノ一戰ニアリ。 各員一層奮勵努力せよ。」
ト。
彼我ノ艦隊相迫ルヤ、敵艦隊先ヅ砲火ヲ開キシガ、我ハ之ニ應ゼズ、次第ニ近ヅキテ、六千めーとるニ至リテ、始メテ應戰ス。 敵ノ艦隊忽チ亂レ、早クモ戰列ヲ離ルゝモノアリ。
風叫ビ、海怒リテ、浪山ノ如クナレドモ、我ガ砲手ハ物トモセズシテ、シキリニ砲撃ス。 敵艦續々火災ヲ起シ、火煙海ヲオホフ。 敵ハカナハジト、俄カニ路ヲ變ヘテ、逃レ去ラントス。 我ハ急ニ其ノ前路ヲ遮リテ攻撃ス。 敵ノ諸艦多大ノ損害ヲ受ケ、沈沒セルモノ亦多シ。」明クレバ二十八日、我ガ艦隊ハ欝陵島(ウツリョウトウ)附近ニ集リテ艦隊ヲ待チ、之ヲ包圍ス。
ねぼかとふ少將ハ白旗ヲ掲ゲ、戰艦四隻ヲ擧ゲテ降服シ、司令長官ろじぇすとうぇんすきー中將ハ傷ヲ負ヒテ捕ヘラレタリ。
此ノ兩日ノ戰ニ、敵艦或ハ撃沈セラレ、或ハ捕獲サセレテ、三十八隻ノ中、逃ゲオホセタルハ僅カニ數隻ノミ。 敵ノ死傷及ビ捕虜ハスベテ一萬六百餘人。 シカモ我ガ軍ノ死傷甚ダ少ナク、沈沒シタルハ水雷艇三隻ニ止レリ。

練習
一、二十七日ノ海戰ノ樣子ヲオ話シナサイ。
二、二十七日ノ海戰ノ樣子ヲ口語文ニオ作リナサイ。
三、日本海ノ海戰ニ、敵艦ノ受ケタ損害ヲオ話シナサイ。
四、次ノ詞ヲ讀ンデ、其ノ意味ヲ言ツテゴランナサイ。
  (イ)包囲。 周圍。
  (ロ)運動。 勞働。 出動。
  (ハ)収穫。 捕獲。 捕虜。
五、「離レル」「變ヘル」トイフ詞ハ、次ノヤウニハタラキマス。
   (口語)             (文語)
 (列ヲ)離レ(ヌ ナイ)    (列ヲ)離レ(ズ)(バ)
 (列ヲ)離レ(テ)        (列ヲ)離レ(テ)
 (列ヲ)離レル         (列ヲ)離ル
 (列ヲ)離レル(人)      (列ヲ)離ルル(人)
 (列ヲ)離レレ(バ)      (列ヲ)離ルレ(バ)
 (列ヲ)離レ(ヨ)        (列ヲ)離レ(ヨ)

 (路ヲ)變ヘ(ヌ ナイ)    (路ヲ)變ヘ(ズ)(バ)
 (路ヲ)變ヘ(テ)        (路ヲ)變ヘ(テ)
 (路ヲ)變ヘル         (路ヲ)變フ
 (路ヲ)變ヘル(人)      (路ヲ)變フル(人)
 (路ヲ)變ヘレ(バ)      (路ヲ)變フレ(バ)
 (路ヲ)變ヘ(ヨ)        (路ヲ)變ヘ(ヨ)
此ノヤウニ、「離レル」(口語)は「レ」ノ一段ニハタラキ、「離ルル」(文語)ハ「ル・レ」ノ二段ニハタラキマス。 又、「變ヘル」(口語)ハ「ヘ」ノ一段ニハタラキ、「變フ」(文語)ハ「フ・ヘ」ノ二段ニハタラクノデス。
六、「出席スル」「命ジル」トイフ詞ハ、口語ト文語トニヨツテ、其ノハタラキガチガイマス。 次ノ例ヲオ讀ミナサイ。
   (口語)                   (文語)
 (壽男ハ)出席セ(ヌ)・シ(ナイ)    (壽男ハ)出席セ(ズ)(バ)
 (壽男ハ)出席シ(テ)           (壽男ハ)出席シ(テ)
 (壽男ハ)出席スル            (壽男ハ)出席ス
 (壽男ガ)出席スル(時)         (壽男ガ)出席スる(時)
 (壽男ガ)出席スレ(バ)         (壽男ガ)出席スレ(バ)
 (壽 男) 出席セ(ヨ)           (壽 男)出席セ(ヨ)

 (壽男ニ)命ジ(ヌ・ナイ)         (壽男ニ)命ゼ(ズ)(バ)
 (壽男ニ)命ジ(テ)            (壽男ニ)命ジ(テ)
 (壽男ニ)命ジル              (壽男ニ)命ズ
 (壽男ニ)命ジル(時)           (壽男ニ)命ズル(時)
 (壽男ニ)命ジレ(バ)           (壽男ニ)命ズレ(バ)
 (壽男ニ)命ジ(ヨ)             (壽男ニ)命ゼ(ヨ)




   
第十七課 まっち
まっちハ價安ケレドモ、甚タ゛便利ナルモノナリ。平生まっちヲ使ヒ慣レタル人ハ、サホドニモ思ハザレド、此ノ物ノナカリシ昔ヲ思ヒ出ス時ハ、今更ニ其ノ便利ナルニ驚カザルヲ得ズ。
まっちノ製造ニハ、非常ナル手數ノカゝルモノナリ。 先ヅ木材ヲ切リテ湯氣ニテ蒸シ、次ニ之ヲ細ク割リテ軸木トシ、更ニ火ニ乾カシテ頭ニ藥ヲ着ケ、其ノ固マルヲ待チテ箱ニ入る。 箱ハ薄キ木片ヲ折リ、其ノ上ニ紙ヲ張リテ造リ、外ガハニ藥ヲ塗ルナリ。
此ノ外、山ヨリ木ヲ伐リ出シ、紙ヲスキ、藥ヲ製スル等ノ手數マデ數ヘ上グレバ、一箱ノまっちガ我等ノ手ニ入ルマデニハ、數十人ノ手ヲ要スルヲ知ルベシ。 之ヲ思ハバ、一本ノまっちモ粗末ニハ使フベカラズ。
まっちハ、今より凡ソ百年前ニ、發明セラレタルモノナリ。 我ガ國ニテハ、初ハ專ラ輸入品ヲ用ヒタリシガ、明治八年ヨリ、國内ニテ之ヲ製造スルニ至レリ。 今日ニテハ、神戸・大阪等ノ各地ニ於テ、其ノ製造甚ダ盛ンニシテ、外國ヘ輸出スルモノノミニシテモ、一年間ニ一千萬圓以上ノ金高ニ達シ、我ガ國輸出品中ノ重要ナルモノノ一ツトナレリ。

練習
一、次ノ文ヲ口語文ニ書キ改メナサイ。
   平生まっちヲ使ヒ慣レタル人ハ、サホドニモ思ハザレド、此ノ物ノナカリシ昔ヲ思ヒ出ス時ハ、今更ニ其ノ便利ナルニ驚カザルヲ得ズ。
二、まっち製造ノ手數ヲオ話シナサイ。
三、我ガ國ノまっち製造ノ盛ンナコトニツイテオ話シナサイ。
四、「安イ」トイフ詞ハ、次ノヤウニハタラキマス。
    (口語)                 (文語)
   (まっちガ)安ク(買ハレル)      (まっちガ)安ク(買ハル)(バ)
   (まっちガ)安イ              (まっちガ)安シ
          安イ(まっち)               安キ(まっち)
   (まっちガ)安ケレ(バ)         (まっちガ)安ケレ(バ)
此ノヤウニ、「安イ」(口語)ハ「ク・イ・ケレ」トハタラキマスガ、「安シ」(文語)ハ「ク・シ・キ・ケレ」トハタラクノデス。




   
第十八課 分業ト共同
世ニハ農夫アリ、大工アリ、商人アリ、又、醫者・學者等アリテ、ソレ\゛/手分シテ、世間必要ノ業務ヲ爲ス。之ヲ分業トイフ。
又、まっち製造ノ如ク、複雑ナル手數ヲ要スル仕事ヲ、多クノ人々ガ手分シテ爲スモ、同ジク分業ナリ。」
分業ニテ仕事ヲ爲セバ、一人ニテ悉ク之ヲ爲スヨリモ、其ノ出來バエ甚ダ良シ。 且ツ人々己ニ適スル仕事ヲ爲スコトヲ得ベク、又、常ニ同ジ仕事ヲ爲スニヨリテ、自ラ之ニ熟スルニ至ルベシ。
分業ト共ニ必要ナルハ共同ナリ。 分業ハ人々ガ手分シテ仕事ヲ爲スモノナレバ、共同一致ヲ必要トス。 まっちヲ製造スルニモ、人々思フガマゝノ事ヲ爲シテ、其ノ間ニ一致ナクバ、まっちハ終ニ出來ザルベシ。 又、農工商等ニ從事スル人々ガ、互いニ相助クルコトナク、却リテ相妨グルガ如キコトアラバ、何レノ業モ遂ニ盛ンニナルコト無カルベシ。」
サレバ分業ト共同トノ二ツハ、社會ノ進歩ヲ計リ、人民ノ幸福ヲ進ムルニ、極メテ大切ナルモノナリ。

練習
一、分業トハドンナコトデスカ。 之ヲ口語文ニオ作リナサイ。
二、分業ノ利益ヲオ話シナサイ。
三、共同の必要ナコトヲオ話シナサイ。
四、次ノ文ヲ口語體ニ改メテゴランナサイ。
(イ)我が國ニテハ、明治八年ヨリ、まっちヲ製造スルニ至レリ。
(ロ)まっち製造ノ手數ヲ一々數ヘ上グレバ、一箱ノまっちガ我等ノ手ニ入ルマデニハ、數十人ノ手ヲ要スルヲ知ルベシ。
(ハ)我ガ國ニ於ケルまっち製造ハ甚ダ盛ンニシテ、今日ニテハ、外國ヘ輸出スルモノノミニテモ、一年間ニ一千萬圓以上ニ達ス。




   
第十九課 道路
道路ヲ開イテ、運輸・交通ノ便ヲ計ルハ、世ノ進歩ニ極メテ必要ナコトデアル。
昔ノ道路ハ幅ガ狭ク、凹凸ガ多クテ、甚ダ不便デアツタ。 殊ニ峠ヲ越エ、河ヲ渡ル時ナドノ困難ハ、一通リデハナカツタ。 然ルニ有リ難イ御代ノオ蔭デ、今日ハ大キナ道路ガ澤山デキ、古イ道路モ修繕サレテ、大變ニ良クナツタ。
道路ニハ一等・二等・三等・当外ノ四種ガアル。 一等道路ハ幅ガ最モクテ四間以上、二等道路ハ之ニ次イデ三間以上、三等道路ハ二間以上アル。 等外道路ノ幅ハ、所ニヨツテ一定シテ居ナイ。
道路ハ荷車ナドノ爲メニ凹凸ガ出來タリ、雨・雪ナドリ爲メニ、イタンダリスルコトガ少ナクナイ。又、路面ヤ路側ノ水溜リレカラ、破損スルコトモ往々アル。 若シ此等ヲ棄テテ置クト、遂ニ大破損トナツテ、一般ノ不便ヲ來タスモノデアルカラ、早く修繕シナケレバナラヌ。
又、洪水ノ場合ナドニハ、人民ハ共同シテ道路ヤ橋梁ナドノ、コハレルノヲ防ガナケレバナラヌ。 之ヲ忽ニスルト、非常ナ災難ヲ招クコトガアル。
並木ハ道路ノ保存ニ必要デアルノミナラズ、又、景色ヲ添ヘ、夏季ニハ通行人ニ日陰を與ヘル効モアルカラ、ヨク之ヲ愛護シナケレバナラヌ。

練習
一、道路ノ種類ヲオ話シナサイ。
二、道路ニツイテ注意スベキコトヲオ話シナサイ。
三、左ノ漢字ニ振り假名ヲオツケナサイ。
   幸福。 副業。 道幅。
   沿道。 療治。
   通行。 通帳。
四、次ノ漢字ノ形ノチガヒニ注意シナサイ。
   逐−遂。  載−戴。 底−紙。
   僅・謹−漢・難。
   假・暇−殿・段−沒・歿−服・報




   
第二十課 塙保己一(はなわほきいち)
世にはあきめくらとて、目は見えながら、文字の讀めざる者あり。 又、文字は讀めても、多くの書物を讀み、博く知識を得たる者は少なし。 然るに目の見えずして、大學者となりし人あり。 塙保己一是なり。
保己一は五歳の時盲となりしが、深く學問を好み、人に書物を讀ましめ、一心に之を聞きて勉強したり。 記憶力強く、一たび聞きたることは、決して忘れざるほどなりしかば、遂に名高き學者となり、非常に多くの書物を著はせり。 保己一の家は、今の東京、其の頃の江戸の番町にありき。 多くの弟子保己一に就きて學びしかば、時の人
「番町で目あき目くらに物をきき。」
といひたりといふ。
或る夜、弟子を集めて書物の講義をせし時、風俄かに吹き、來りて、ともしび消えたり。 保己一は、それとも知らず、講義を續けたれば、弟子どもは
「ん製、少しお待ち下さい。今、風であかりが消えました。」
といふ。 保己一は笑ひて、
「さて\/、目あきといふものは不自由なものだ。」
といひたりとぞ。

練習
一、左の文を口語體に改めてごらんなさい。
(イ)塙保己一は盲人(モウジン)なりしも、世にら珍らしき大學者となれり。
(ロ)保己一は自ら書物を讀む能はざれしも、人に讀ませて之を聞き、よく記憶して忘れざりき。
二、保己一が書物の講義をした時のことわお話しなさい。
三、はたらく詞は、普通に其のはたらく部分を送り假名とするものです。
   讀まず  學びて  好む  行けば  等
四、稀にははたらかぬ部分にも、讀みやすいやうに、送り假名をつけることがあります。
   表(あら)はす……表(ひょう)す
   滅(ほろ)ぼす……滅(めっ)す
   出(い)だす……出(だ)す   等
五、はたらかぬ詞にも、讀みやすいやうに、送り假名をつけることがあります。
   且つ  甚だ  若し  能く  直ぐに  直ちに   等





第二十一課 金剛石(こんごうせき) (変体仮名表記のため省略)




   
第二十二課 暦
今日は何月何日にして、又、何曜日なるか。 此等は暦を見て知ることを得べし。 野蠻人の間には暦なき故、彼等は、月日のみならず、己の年齢をも知らざるなり。
又、暦には祝日・祭日・節氣、毎日の干支等を記し、其の外種々の入用なる事を載す。
農家は節氣に從ひて作物の種子を播き、苗を植ゑ、又、これが収穫を爲さざるべからず。 故に農家に取りて、暦は甚だ大切なるものなり。
民間にては暦を作ることを得ず。 之を作る時は罰せらる。
朝鮮民暦には、陽暦と共に、陰暦をも掲載せり。陰暦は即ち舊暦なり。
朝鮮に於ては、久しく陰暦の行はれ居るを以て、民間の便を計り、之を載せ置くなり。 然れども、公事には陰暦を用ふることなし。」
朝鮮民暦は總督府にて編製し、價を安くして、民間に賣り捌かしむ。

練習
一、暦にはどんなことが書いてありますか。
二、農家に暦の必要なわけをお話しなさい。
三、朝鮮民暦に、陰暦をも載せて置くけをお話しなさい。




   
第二十三課 舊師に送る手紙
謹啓。 寒氣甚だしく候處、益〃御機嫌よく入らせられ候御事と賀し奉り候。 其の後、私事も無事に暮し居り候間、憚ながら御安心下されたく候。 在學中御教授下され候事は、何れも皆有益なるものに之あり、殊に國語は日常の用事を辯ずるにも非常に便利にて、益〃深く先生の御恩の有り難きを感じ申し候。 豫ての御教訓を守り、職業の暇には、少しづつにても書物を讀み、知識をみがき候樣心掛け居り候。 時下御自愛專一に祈り奉り候。 敬具

     同じく返事
御手紙拝見致し候。 近頃は寒氣も一入相揩オ候へども、愈〃御壮健の趣賀し上げ候。 自分も幸に無事に候間、御安心下さるべく候。貴君には、其の後も日々家業に御出精なされ、又、閑暇の節には讀書をもなされ候由、何より結構の事に候。 尚ほ、今後も相變らず、御勵精相成るやう希望致し候。 草々。

練習
手紙の文には、次のやうにいろ\/變つた書き方があります。之を讀んでごらんなさい。
一、送り假名を省くもの。
  申し上げ候……申上候   拝見致し候……拝見致候
  賀し上げ候……賀上候   感じ申し候……感じ申候
  心掛け居り候……心掛居候
二、假名の代りに、漢字で書くもの。
  致したく候……致度候   甚だしく……甚敷
  御座なく候や……御座なく候哉   候へども……候得共
三、漢字ばかりで書いて、反(かへ)つて讀むもの。
  之あり……有之   下さるべく候……可被下候
  祈り奉り候……奉祈候   相變らず……不相變
  有り難く……難有




   
第二十四課 日記
日記ト云フモノハ、一寸考ヘルト、書クノニ手間ガカゝルバカリデ、別ニコレト云ふ利益モナイヤウデアルガ、實ハサウデナイ。 日記ニ書イテ置イタ事ハ、後ニナツテ、役ニ立ツコトガ多ク、又、之ヲ讀ムト、何年ノ何月ニハ、コンナ事ヲシタナドトオモヒ出シテ、愉快を感ジルモノデアル。 ソレバカリデナク、毎日、日記ヲツケルト云フコトハ、者後ヲ綿密ニスル習慣ヲ養フモノデ、若イ者ニ取ツテハ、格別著イ事デアル。日記は簡単ニ分リ易ク書ク方ガ善イ。 細カク書クト、餘計ニ手間ガカゝルカラ、長續キガシナイ。次ニアルノハ、崔允明ノ日記ノ一部デアル。

     二 月
  九日  月曜  曇
昨夜カラ西風ガ強ク吹イタ。 父上ハ、家内ノモノニ、火ノ用心ヲヨクセヨト命ジラレタ。

   十日  火曜  晴
天氣が大層寒クテ、朝ハ寒暖計ガ零下二十度ニサガツタ。 明日ハ紀元節ダカラ、學校デ紀元節ノ唱歌ノ練習ガアツタ。

  十一日  水曜  晴  紀元節
朝早ク起キテ、國旗ヲ立テタ。 午前十時ニ、學校ニ紀元節ノ儀式ガアツテ、校長先生カラ、神武天皇ノオ話ガアツタ。先生ノオ話デ、神武天皇ノ御恩ノ非常ニ深イコトヲ感ジタ。 學校カラ歸ツテ、李洪一サント遊ンダ。 平壤ノ叔父サンニ、手紙ヲ上ゲタ。

  十二日  木曜  雪
朝起キテ見ルト、雪ガ降ツテ居タ。學校ノ往キ來ニハ、途ガ惡カツタ。隣ノ李準弘サンハ、小サナ弟ノ手ヲヒイテ、一シヨニ學校ヘ連レテ行ツタ。弟ヤ妹ニ親切ニシテヤルノハ、マコトニ善イコトダト思ツタ。

  十三日  金曜  曇
學校カラ歸ツテカラ、父上ノ御用デ、齋藤サンノ家ヘ使ニ行ツテ來タ。父上ハ急ニ用事ガ出來テ、大東面ヘ行カレテ、夜オソク歸ラレタ。

  十四日  土曜  晴
今朝學校ヘ往ク途中デ、ガマ口ヲ拾ツタ。中ニ金ガ壹圓貳拾五錢ハイツテ居タ。先生カラ教ヘテ戴イテ、屆書ヲ書イテ、鍾路警察署ニ屆ケタ。

  十五日  日曜  晴
イツモノ河デ、氷スベリヲシテ遊ンダ。洪奇一サンガ、チヨツト人ノ突キ當ツタノヲ、大層オコツタノハ、善クナイコトダト思ツタ。

練習
一、日記ヲ書クト、ドンナuガアリマスカ。
二、日記ノ書キ方ヲオ話シナサイ。
三、次ノ詞ニ、送リ假名ノマチガイガアルナラバ、オ直シナサイ。
   招ネク  作クル  遊ビテ  格別ツ  夜ル  思モフ  歸ル




   
第二十五課 拾物屆
二月十四日ノ朝、崔允明ハ學校ヘ行く途中デ、ガマ口ヲ拾ヒマシタノデ、ソレヲドウシテヨイカ、先生ニ尋ネマシタ。
先生ハ
「拾物ハ必ズ警察署カ憲兵隊ニ屆ケナケレバナラナイ。屆ケルニハ、口頭デモ差支ナイガ、屆書ノ方ガヨイ。」
ト言ツテ、其ノ書式ヲ教ヘラレマシタ。
ソコデ允明ハ左ノ屆書ニガマ口ヲ添ヘテ、警察署ニ持ツテ行キマシタ。

     拾物屆
一、ガマ口           一箇
  金壹圓貳拾五錢入
右本日午前八時半壽松洞ニ於テ拾ヒ取候間
御屆申上候也
           京城附安國洞百十七番地
 大正四年二月十四日         崔  允  明
    京城鍾路警察署御中

練習
一、拾物ヲシタ時ノ心得ヲオ話シナサイ。
二、ガマ口ヲ拾ツタ時ノ屆書ヲ、書イテゴランナサイ。




   
第二十六課 勞働
人ハ己ノ力ニテ生活スル覺悟ナカルベカラズ。勞働ヲ賤シキモノト思ヒ、何事モ爲サデ暮スヲ善キコトノヤウニ考フルハ、大イナル誤ナリ。「額ニ汗(アセ)シテ食へ。」トハ、人ノ片時モ忘ルベカラザル格言ナリ。
タトヒ幸ニシテ富家ニ生レタリトモ、決シテ空シク日ヲ送ルベカラズ。職業ヲ努メテ、益々其ノ財産ヲ殖ヤシ、之ヲ公益慈善ニ用フベシ。又、若シ不幸ニシテ貧家ニ生レタランニハ、大イニ其ノ職業ヲ勵ミテ財産ヲ作り、身ヲ立テ、世ヲ益スルヤウ心掛ケザルベカラズ。
職業の爲メニ心身ヲ勞スルハ、たゞ苦シキノミニハ非ズシテ、マタ大イニ樂シキモノナリ。即チ農夫ガ田畑ヲ耕作スル時、工匠ガ器物ヲ製作スル時、商人ガ物品ヲ賣買スル時等ニハ、其ノ間自ラ樂シミアルモノナリ。終日働キテ、其ノ職務ヲ盡シタル後ニ、一種ノ愉快ヲ感ズルハ、何人モ經驗スルトコロナルベシ。
加之(シカノミナラズ)、勞働ハ人の健康ヲ保ツニ必要ナルモノナリ。安逸ニ耽ル者ハ多ク病身ニシテ命短ク、勞働スル者ハ健康ニシテ命長シ。
勞働ハ神聖ナリ。人ハ五體ノミニテ生レ來レルモノト心得、心身ヲ勞シテ、自活センコトヲ計ルベシ。農夫トシテ働ケ。職工トシテ働ケ。或ハ商人トシテ働ケ。其ノ他何ナリトモ、己ニ適スル職業ニ就キテ働ケ。其ノ職業ノ何タルカハ、敢テ問フヲ要セザルナリ。

練習
一、「額ニ汗シテ食へ。」トハ、ドウイフコトデスカ。
二、勞働ノ樂シイコトヲオ話シナサイ。
三、勞働ノ健康ニ必要ナコトヲオ話シナサイ。




   
第二十七課 註文状
拝啓。去月
二十八日御發送の反物貮拾反、本日正に受取り申し候。右は當地方にて、賣れ行き宜しき品と存じ候間、更に參拾反、本月十五日迄に到着致し候樣、至急御出荷相成候。尚ほ同時に、老人向及び子供向の木綿反物、地質・色合等御見計らひの上、各々二三づつ、見本として御送り下され度候。右御註文まで。 早々
                        
   右返事
拝復。本月一日附御書面、正に拝見仕り候。毎度御引立を蒙り、有り難く存じ奉り候。扨、重ねて御註文下され候反物參拾反、本日發送仕り候間、御査収下され度候。尚ほ御申し越しの勞時向及び子供向の木綿反物、當時好況の品、同便にて、各々三種づつ、見本として差上げ候間、御覧の上、何れなりとも御用命下され讀本願ひ上げ候。以上。

練習
一、次の詞をお讀みなさい。
    見本として御送り被下度候。
    御引立てを蒙り、難有り奉存候。
    御用命被下度願上候。
二、書籍註文の手紙をお書きなさい。




   
第二十八課 孔子と孟子
今より凡そ二千五百年前、支那に孔子といふ人出でしが、智コ圓滿にして、能く人を教へ、道を明らかにし、世に聖人と稱せらる。
孔子は支那の魯(ろ)といふ國生れ、幼少の頃、常に禮儀、作法の稽古などして遊戯せり。
長じて小吏となりしが、能く其の任を盡したり。後には高官に進みて魯の政治を行ひ、大いに國勢を盛んにせり。然れども魯の君、長く孔子を用ふること能はず。孔子遂に官を辭せり。」
孔子には弟子三千人ありしが、其の中、特にすぐれたる者、七十二人ありき。論語は、弟子等が孔子の歿後、其の言行を記したる書にして、後世にuを與ふることを極めて大いなり。
孔子の後、約百年にして孟子出づ。孔子の孫、子思の門人なり。孔子の道を傳へて、世に大賢と稱せらる。早く父をうしなひ、母に育てらる。孟子の母は稀なる賢婦人にして、深く我が子の教育に心を用ひ、孟子をして善からぬ事を視聽きせしめざる爲めに、三たび其の居を遷せりといふ。孟母三遷の教とは是れなり。
孟子歳長じて、出でて學びしが、業未だ成らずして歸り來れり。母たま\/機上にあり。直ちに其の機を斷ち、孟子を戒めて言ひけるやう、「今汝の學を廢するは、我が此の機を斷つが如し。」と。孟子深く感じ、これより大いに學業を勵み、遂に一世の大儒となれり。かくて終身道を説き、弟子甚多かりき。其の著はしたる孟子といふ書は、論語と共に長く世に行はる。
孔孟の道は即ち儒教にして、早く我が國にも傳はれり。

練習
一、孔子のことをお話しなさい。
二、孟子の母のことを口語文でお書きなさい。
三、論語はどんな書物ですか。孟子はどんな書物ですか。




   
第二十九課 菅原道眞(すがわらのみちざね)
内地には至る所に、天神樣の社があつて、其の社には多く梅の木が植ゑてある。
これは菅原道眞といふ、忠義の心のごく深くて、學問の大層博かつた御方を祀つたものである。」
菅原道眞は生れつき賢くて、子供の時には神童といはれ、僅かに十一歳で、梅の花の詩を作つた。道眞は學問にすぐれたばかりでなく、武藝にも達して居た。道眞が師の所に通學して居た頃、同門の者どもが、學問ではとてもかなはないから、弓の射くらべをして、道眞に恥を與へようとはかつた。道眞はさまざまに辭退したけれども、皆がきかないから、弓に矢をつがへて射放した。するとねらひたがはず、的(まと)の眞中(まんなか)を射ぬいた。何べん射ても、一度もはづさなかつたので、皆が驚いて、道眞が弓矢の道にも、すぐれて居るのに感心した。
道眞は成長してから段々出世して、天子樣に重く用ひられ、遂に高官にのぼつたが、まことに忠誠無二の名臣であつて、身を惜しまず政治に力を盡した。然るに惡臣どもは道眞を嫉んで、たび\/讒言を申し上げた。それで道眞は終に罪を受け、官をおとされて、京都から九州へ遷された。
けれども、道眞は、露ほども天子樣を怨み奉る心はなく、常に其の御恩の深いことを、有り難く思つて忘れなかつた。
道眞は終に九州で薨じたが、後に天子樣は其の罪をおゆるしになつたばかりでなく、高いくらいをお贈りになつた。日本中の人々は皆道眞のコを慕つて、方々に社を建てて、學問の神として祀つて居る。道眞は大層梅の花を好んだから、今でも其の社には、多く梅の木を植ゑて置くのである。

練習
一、道眞が學問にすぐれて居たことをお話しなさい。
二、道眞が武藝に達して居たことをお話しなさい。
三、道眞が忠義の心の大層深かつたことをお話しなさい。
四、天神樣の社のことをお話しなさい。




  
第三十課 大日本帝國(一)
我ガ大日本帝國ハ、萬世一系ノ天皇ノ治メ給フ國ナリ。
中央政府ハ天皇陛下ノ仰ヲ承ケテ、帝國ノ政治ヲ行フトコロニシテ、内閣ト外務・内務・大藏・陸軍・海軍・司法・文部・農商務・逓信ノ九省トヨリ成ル。
各省ニハ大臣アリテ、其ノ省の長官トナリ、ソレゾレノ政務ヲ行フ。
各省大臣ハ國務大臣トシテ、内閣ヲ組織シ、内閣總理大臣ハ其ノ首班トナリテ、政務ヲ統一ス。
地方ニハ各府縣ニ知事ヲ置キ、北海道及ビ樺太ニハ長官ヲ置ク。
又、朝鮮ト臺灣トニハ、各總督ヲ置キ、關東州ニハ都督ヲ置ク。
帝國議會ハ貴族院ト衆議院トヨリ成リ、法律案及ビ豫算案ヲ議決ス。帝國議會ニテ議決シタル法律案ハ、天皇陛下ノ御裁可ヲ經テ法律トナリ、豫算ハ天皇陛下ノ御裁可ヲ經テ實行セラル。
裁判所ハ法律ニ依リテ訴訟ヲ裁判ス。大審院・控訴院・地方裁判所・區裁判所ノ別アリ。朝鮮及ビ臺灣ニハ總督府ニ屬スル裁判所アリ、關東州ニハ都督府ニ屬スル裁判所アリ。

練習
一、九省トハ何々デスカ。
二、地方ニハドンナ役人ヲ置キマスカ。
三、帝國議會ハドンナコトヲシマスカ。
四、裁判所ノコトヲオ話シナサイ。




  
第三十一課 大日本帝國(二)
我ガ國ハ諸外國ト條約ヲ結ビ、其ノ國々ニ、大使或ハ公使ヲ遣ハシテ外交ヲ修メ、領事ヲ遣ハシテ通商ニ關スルコトヲ掌ラシム。
我ガ國ノ教育ハ頗ル進歩シ、小學校・中學校・高等女學校・實業學校・専門學校・大學等アリ。又、朝鮮ニハ特ニ普通學校・高等普通學校・女子高等普通學校・實業學校・専門學校等設ケラル。
軍備ハ甚ダ盛ンニシテ、十九箇師團ノ常備軍ト、五十萬噸ノ艦艇トアリ。其ノ精鋭ナルコトハ、日C・日露ノ兩戰役ニ於テ、世界ニ知レ渡レリ。
交通ハ極メテ便利ニシテ、陸上ニハ汽車・電車等往來シ、水上ニハ汽船航行シ、郵便・電信・電話ノ利用モ日ニ盛ンナリ。
農業ハ古來頗ル開ケタルガ、近來殊ニ盛ンニナリ、商業・工業・モ亦大イニ進メリ。外國貿易ハ、横濱・神戸ノ二港ノ外、内地・朝鮮・臺灣ノ諸港ニテ行ハレ、一箇年ノ輸出入額ハ約十億圓ニ達ス。
我ガ大日本帝國ハ、上ニ仁慈ノ天皇陛下ヲ戴キ奉リ、下ニ忠良ノ臣民アリ。國威日ニ揚リ、國力月ニ進ム。國民タルモノ益々奮勵努力シテ、皇恩ノ萬分ノ一ニ報イ奉リ、國運ノ隆昌ヲ圖ラザルベカラズ。

練習
一、外國ニハドンナ役人ヲ遣ハシテ置キマスカ。
二、教育ノコトヲオ話シナサイ。
三、軍備ノコトヲオ話シナサイ。
四、交通ノコトヲオ話シナサイ。
五、農工商業ノコトヲオ話シナサイ。
六、國民ノ心得ヲオ話シナサイ。


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